禁句

「閻魔大王様」

「なんじゃ青鬼」

「ヘンなのが現世の方からやってまいりました」

「どういう風にヘンなのじゃ?」

「えらく元気で、顔色もツヤツヤしてます」

「そいつはポックリ死んだのだな、きっと」

「ところがおかしいと思って調べたんですが、病気や事故じゃありません」

「あ、間違ってこっちに来たのか。 そそっかしいヤツだ」

「いえ、ちゃんと三途の川を渡っております。 間違いなく死んでます」

「ふ~む。 ま、とにかく連れて参れ」

「ハハッ」


・・・・・・・・・


「お前は、ここがどんな場面かわかっておるのか? はしゃいでおるが」

「いやあ、そっくりだ。 絵で見たことのある閻魔様だ」

「ん?」

「よくできたご当地キャラだなあ。 くまモンよりもせんとくんよりも出来がいい」

「・・・お前、なにか勘違いしておらぬか?」

「勘違いと言うと? あ、ゆるキャラじゃなくてマスコットという意味? スワローズのつば九郎とか」

「そうではなくて、どうしてここに居るのか分かっておるのかということじゃ」

「なんだ、えらそうな言い方。 ワシは日課のジョギングしてたんだ」

「ふむ」

「そしたら見たことない川に来たから、最初は引き返そうと思ったんだ」

「ふむ」

「ところが、そうだ鍛錬にもってこいだと気が変わったね」

「ふむ」

「いずれトライアスロンにチャレンジする予定だったから、泳いじゃおってね」

「ふむ」

「流れは結構きつかったけど、体力自信があるからね。 岸に上がったらここだ」

「お前えねえ、あの川は三途の川だぞ。 ふつうの川とは違うんじゃ」

「サンズ? あんまり聞かない川だ」

「お前いったいいくつなんだ」

「オレ? 立派な高齢者だ」

「ふ~む、とても年寄りとは見えぬ」

「当たり前だ。 日頃鍛錬している。 見損なっちゃ困るぜ」

「あ、ひょっとしてお前。 あの禁句を言わなかったか?」

「なんだ、それは」

「つまり”健康のためなら死んでもいい”ってやつを」

「おう、言ったが悪いか。 これを口にするとまわりが喜ぶんだ。 うけるぜ」

「なんだそうだったのか。 おい青鬼、こいつはとっとと現世へ返せ」

「え~ッ! どうしてです。 死んでもいいって言ったやつですぜ!」

「だから、このケースの処置はいま揉めておるんじゃ」

「へ?」

「いま天国担当のお釈迦様と、この場合の取り扱いで協議中なんじゃ」

「と申しますと?」

「健康と死は並び立たん。 つまりこいつの言っているのは嘘になる」

「じゃあ嘘つきだから舌を抜いて地獄行きじゃありませんか」

「いままではそうじゃった。 が、いまはちょっと事情が異なってきた」

「どういう風にです?」

「こいつが言ったことは、一種のマニフェストではないかという説が出てきた」

「へ?」

「つまりじゃ。 マニュフェストと実際の行動との関係。 これが難しいということじゃ」

「ワシら、難しいことはわかりませんが、面倒な話ですなあ」

「ま、しばらく様子を見ることになった」

「どうしてです?」

「ワシらは、現世と連動しておるからな」

「で、いつまで待つんです?」

「現世でマニフェスト問題が一段落するまでだ」  

「ふ~ん。 きっとウヤムヤになりますぜ」

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